たそがれのカツドウヤ 9会社にかえってみると、もう時間は5時半だった。「おい、新人諸君、買い出しだ。」 金曜日といっても、ほっとはさせてもらえないようだった。 「なにかあるんですか?」 ナシコダに聞いた。 「ハナキンだよ。ハナキン。みんなで金曜日の夕方、おつまみとか買ってきて、のむんだよ。」 「おう、いくぞ」 タケカワだった。メイジ大学出身で、このあと新人三人。おおいにお世話になる。 「おまえらさ、よくはいったね。やっと、下っ端の地位からぬけられるよ。」 彼も、まだ春先というのに、半そでのシャツだ。いわゆる体育会系といった感じだった。 「とにかくな、なにがあるか、おれにもわからない。そりゃあ、会社だからな。でも、3年は辛抱しろ。そうすれば、見えてくるものもあるよ。」 そういいながら、おりていくと、4階で建設会社のOLが3人乗り込んできた。すると、タケカワは寡黙になった。 狭いエレベーターの個室、二十代の男性3人。女性3人。よからぬこと(?)を考えたのは、もうこの映画会社の洗礼をうけたからか? 結局、当然だが、なにごともなく一階に着き、近くにある公団住宅の一階にある酒屋にいって、ポテトチップスやら、乾きものやらをたんまりと仕入れた。 「飲み物はどうすんですか?」 「ばかやろう、そんなもん、会社にあるんだよ。」 事務所に戻ってみると、いまかいまかと買い出し部隊の帰りを待っているふうであった。 「新人たち、まあ、これはな、ハナキンといって、こうやって、飲みながら時間をすごすもんで、毎週やってる。強制じゃないが、仕事の都合がつけば、いっぱい飲んでかえれ。」 オギクボの解説。あと、来週、歓迎会をするともいわれた。 「ハナキン」 この言葉が一般化する4~5年前の話だ。飲んでいると、 「おはようございます。」 ホッタがビデ倫から帰ってきた。 夕方の6時すぎに「おはようございます」。すくなくともカタギの会社に入ったのではない。それだけは、あきらかなようであった。 |